第4日目 インレー湖到着
明け方眠い目をこすりながら飲むコーヒーミックスは格別の味がします。そろそろ目的地が近くなりました。このあたりはシャン高原でなだらかな丘陵地帯です。ほぼ定刻にバスはインレー湖の分岐点に到着しました。バスを降りるとタクシーが待ち構えていました。一人200チャットと声がかかりましたが、それはご遠慮願ってサイカーで行くことになりました。値段は一人200チャットで交渉成立、2台のサイカーが私達を乗せ、のんびりした田園風景の中を進みます。後で測定したら12キロの距離がありました。そんな中を40分揺られて宿に到着です。
トンは次第に私達の荷物を自ら進んで持ってくれるようになりました。初めて見る新しい土地に感激しているようです。宿で朝食をサービスしてもらい、長いバスの旅の疲れを見せることもなく町を徘徊することになりました。幸いに今日はこの町に市が立つ日です。カラフルな市場は見ているだけでも楽しいお祭り気分です。お花市場、野菜市場、雑貨、生きの良い魚、ミャンマー独特の葉巻などが山積みになっています。宿の前には運河があり、それは市場へと通じています。荷物を満載したボートがひしめき合っています。こじんまりとした町は散歩するにも手ごろで、排気ガスも少なく、遠くからボートのエンジン音がカラカラと響いてきます。市場では、ビニール袋のほかに木の葉を利用した包装材も見かけます。穏やかで且つ賑わいのある市場をしっかりと見学することが出来ました。町を散歩していると仏教寺院を見かけました。地方の無名なお寺は外国人料金などという野暮な設定はありません。トンは嬉しそうに早速お参りです。じっと壁に描かれた仏様の絵物語を真剣に読んでいます。朝の散歩はあっと言う間に終わり、昼ご飯が近くなりました。宿の近くの大衆食堂で焼き飯を食べましたが、一人200チャットですから40円という料金です。これでは、いつになったら手持ちの100,000チャットを使い切るのでしょうか?
少しばかり休憩を取って午後はシャン州の州都タウンジーまで足を伸ばすことにしました。ラインカーで大体1時間の距離で、料金は一人150チャットです。概してこの国のラインカー(乗合ピックアップ)はいつも混雑していて屋根にも人が乗っかっている光景をよく見かけます。トンは屋根に席を取りました。私は後ろの立ち席です。オバサマは何とか中に座ることが出来ました。乗り合わせたタウンジー大学の女学生と楽しい会話教室が始まりました。オバサマは彼女達から差し出されたひまわりの種を捨てるわけにもいきません。地元の人々のしぐさを真似てもうまく割ることが出来ません。しまいには、可憐な女学生がプィと種を割って差し出してくれるという親切ぶりです。牛詰めの車内はそんな和やかな空気に包まれて快走していきました。終点が近くなるころ私の手足はもうガタガタになっていました。ここで、車内に潜んでいた女学生と記念撮影をしましたが、トンは恥ずかしそうに距離を置いて遠くから女学生を眺めています。そんな彼を無理やりに皆の中に押し込んで撮影をしたのです。タウンジーの市場周辺を散歩してお茶を飲んでいるともう4時半を過ぎました。最終のラインカーは5時半と聞いていますから、そろそろ帰りの便を見つけなければなりません。トンは我々の次なる行動を察知し、インレー湖に帰るラインカーの乗り場を探り当ててくれました。何かと便利な青年で、オバサマ達とも打ち解けてきました。
ミャンマーの主要な観光地といえば、マンダレー、インレー湖とパガンの仏教遺跡が挙げられます。こういった土地は他の無名の町に比べると格段に整備が行き届いています。夜遅くても市街には街灯がこうこうとしています。しかし、今回は運悪く夕食に向う道中で、オバサマの一人は竹串が足に突き刺さりトロリンコと血が流れてきました。一同顔面蒼白、どのように処置するべきか重大会議です。トンはそんなことは日常茶飯事と見え、大騒ぎをしている我々の一挙一動に関心があるようです。ミャンマーを旅行中何かの傷が原因で足の指を切断した人もいるそうで油断は出来ません。しかし、次第に出血も止み一命?をとりとめたけはいです。
私も足の裏にとげが刺さったのでしょうか、チクチクしています。こちらの人の視力は抜群ですから、彼に見てもらうことにしました。「ほらほらこれが取れないかなぁ?」と相談すると直ぐそばにあるトゲのある花木のトゲを引きちぎり、キュッキュットつついて瞬時に刺抜きをしてくれたのには驚きました。私達の世界では、こんな場合にはトゲ抜きかピンセットを利用して取り出すことしか頭に浮かびません。彼の場合はすぐ近くにある枯れ枝や花木のトゲが浮かびあがったのでしょう。確かにこの方法がもっとも自然な手段といえるでしょう。文明社会にどっぷりと浸った私達は何と不幸なのかと改めて深い反省の念に駆られてしまったのです。日本人というのは変なことで大騒ぎしているよ…!
今日の夕食は中華料理です。トンは真面目を絵に描いたような性格で、お酒も飲まず、タバコも吸いません。時々自分の嗜好品であるミャンマーチュウインガムを口にする程度です。それが、一つ2円が相場です。食後には決まって、2円札を握りしめて「チョットゴメン。あれを買ってくるから」と嬉しそうに近くの店に入っていきました。「本日は長旅お疲れ様でした。」では乾杯といっても、女性2人はビールで男性2人がジュースという変則的な組み合わせですから、ウェイターが戸惑ってしまいます。そんな組み合わせも世界にはあるのです。本当に今日はお疲れ様でした。乾杯!